新しい展開の会社設立
はじめに時代は常に動き、世の中は変わる。
昭和三十年代後半から急激に成長しはじめた日本経済は、その後も衰えることなく拡大し、世界が注目するほどの成果を生み出した。
第二次世界大戦によって焦土と化した日本は、奇跡の復活をなしとげたのである。
その勢いは昭和六十年代まで続いた。
実に三十年以上もの長きにわたって成長を続け、GNP(国民総生産)はアメリカに次いで世界第二位になった。
もちろんその間、何度か不況も経験した。
業種や企業によっては、近代化をはかることができず、競争に破れて姿を消したものもある。
しかし全体でみれば、日本経済の成長勾配は、約三十年にわたって右肩上がりの軌跡を描いたのである。
各産業のなかでも成長が目立ったものの一つが、不動産業界だ。
経済の発展にともなって、オフィスビルや工場用地の需要が増した。
それと同時に庶民の住宅需要も増大し、大都市の周辺を中心にして地価がしだいに上昇したのである。
土地の価値は、高まりこそすれ、低下するおそれのないものと考えられた。
土地の広さは有限であり、土地を必要とする人間の数は増えつづけていたからだ。
平成不況の影響から脱し切れないいまでこそ、少子化が社会問題になっているが、経済が成長していた時代には、それに比例するかたちで人口が増えていた。
需要が増大し、供給に限度があれば、ごく当然のこととして、その価格は高騰する。
そのため不動産業界はもとより、一般庶民も土地の価格は永遠に上昇するとの共通認識を得た。
日本人総不動産屋のごとく、ゼネコン、商社からメーカー、サービス業、さらにはス−パーや庶民に至るまで、銀行が〃湯水の如く″資金を提供し、不動産を買いあさったため、地価は青天井のごとく上昇した。
そのなかでメインプレーヤーの不動産会社は土地に投資し、金融機関がこれに惜しみなく融資する。
これが「土地神話」が形成された背景であり、不動産業界発展の基盤である。
しかし、経済というものはある種の魔物である。
人間の予想を超える動きをする。
まさに「見えざる神の手」が働いているかのようだ。
「神の手」は、平成の日本でも働いた。
不動産会社の土地購入資金のほとんどは、金融機関からの借り入れでまかなわれていた。
つまり、不動産会社が金融機関から借金をして土地を購入し、それを転売することで利益をあげていたのである。
不動産会社の事業は「借金経済」だったのだ。
したがって、総量規制によって資金の融通がなくなれば、土地取引は停滞するほかない。
事実、総量規制の実施以降、土地や不動産の取引は急激に減少した。
その結果、商社、卸、メーカー、ゼネコンをはじめとする企業、また、個人も含めて値上がりを見越して不動産会社から購入していた土地は次々と不良資産となっていったのだ。
これに付随して融資していた金融機関も貸出金の回収ができなくなり、多額の不良債権を抱えることになった。
これが「バブル崩壊」の実像である。
しかも、その破壊力は絶大であった。
あろうことか、金剛不壊と信じられた「土地神話」が崩壊したのだ。
世界の常識を超える地価の高騰は、世界経済における日本の立場を危うくした。
そしてこれは、世界経済との調和がとれなくなることを意味していた。
そこで政府は不動産融資総量規制を断行する。
土地購入資金として金融機関が、不動産会社に融資する額を制限しバブル経済と土地神話の崩壊によって、不動産業界は奈落の底に突き落とされた。
日本を代表するようないくつかの大手不動産会社を除いて中小の不動産会社は、存亡の危機に立たされた。
事実、多くの不動産会社が、バブル崩壊以降に倒産の憂き目にあった。
そして、「歓楽極まりて哀情多し」の格言どおりに、不動産業界はバブル崩壊以後、十年以上にわたって不振をかこっている。
しかし、それでもなお、時代は動いていく。
再興が絶望的にみえた不動産業界にもやがて曙光の兆しが見えはじめる。
むろんそこに、時代の風向きの変化というものはある。
しかし、風だけでは社会は動かない。
やはり、暗闇に松明をかざして走る先進的な存在が必要なのである。
そのような存在もまた、時代が用意してくれる。
それが神の意思であり、天の配材というものである。
不動産業界はいま、再び活況を呈している。
それは新たな市場原理をもとにした企業や経営者が登場し、時代のニーズに沿った事業を展開しているからである。
その新しい市場原理の一つが「不動産再生ビジネス」だ。
従来のスクラップ・アンド・ビルドの原理にのっとった開発型の事業ではなく、既存のビルやマンションをリニューアルし、総合的な価値を高めたうえで販売あるいはリースをする。
それは資源の有効利用につながるとともに、都市環境と自然環境の保全に結びつく事業である。
この不動産再生事業の旗手として注目されているのが、S不動産株式会社の代表取締役・H・T氏だ。
H氏の経営は、斬新を通り越し、革命的でさえある。
なにが革命的なのか。
それは彼が掲げる「利己よりも利他を」という経営理念に端的に「人に喜んでもらうことが仕事の第一義」、「社会や人さまの役に立ってこそ事業といえる」という。
利益を追求するのが、企業経営の本質である。
それがあえて「利己よりも利他」というのである。
この言葉は世間の常識では測れない。
実は、H氏の経営理念は、彼が師と仰ぐK社のI・K氏から伝授された思想に根ざしている。
それは仏教と儒教を基本にする考え方だ。
もちろん、企業活動なのだから利益は追求する。
事業の拡大、発展もはかっている。
しかし、「それが究極の目的ではありません。
この事業に関係する人たちみんなに喜んでもらい、さらには資源の保護や大気汚染の防止、地球温暖化ガス削減など、地球環境の保全、改善をめざすのが不動産再生事業の真の目的です」とH氏は説く。
「人間として生きるとはどうあるべきか」「仕事とはなんのためにするのか」この人としての本質ともいうべき問いかけを当たり前のように自らに重ね、そこから引き出されるH氏の強い理念と信念は、通り一遍の説明では理解できない。
しかし、新しい時代をつくり出す人物たちの言動は、常に世間の意表をつくものであることもまた事実である。
会社設立から五年、S不動産の平成十六(二○○四)年度の売上見込高は約七○億円である。
その売上高を「九年後には一○○○億円にし、さらに将来はM不動産をしのぐ一兆円にしたい」というH氏の信念には、驚嘆すべきものがある。
まさに生き馬の目を抜くような激しい競争が繰り広げられている不動産業界にあって、「利己より利他を優先する」という理念を掲げ、地域の活性化と地球環境の保護に資する不動産再生ビジネスに取り組むS不動産の活動を紹介する。
平成十六(二○○四)年九月現在、景気が三十カ月連続して拡大している。
内閣府が発表する景気動向指数(一致指数)が景気拡大を示しはじめたのだ。
今回の景気拡大のはじまりは、平成十四年一月にあった。
もっともその後、現在にいたるまで経済界や学者などから「景気は回復した」「いやいまだ停滞期にある」などの相反する意見が混在していた。
かつての大型景気とは異なり、現実に好況の実感がないことが、意見の分かれた所以である。
今回の景気を牽引する主な要因は、次の三つに見られる。
筆頭はデジタル家電の増進である。
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